昨日の夜、お酒を飲みながらスピッツの「水中メガネ」を聴いた。
美しいイントロから始まる夏を感じさせるメロディ。美しい草野さんの声。
歌詞はコチラ。
いままでは何となくで聴いていて、それでも美しくて、だからそのままにしていた。でも昨日は何かが違った。
歌詞を見ながら聴いてみようと検索してみる。難しい言葉は何一つないのに、なぜか難しい。
そのままで聴いていたらちゃんと理解することはできないであろう歌詞。
でも昨日は何かが違った。そして気づいた。
この曲が何を歌っているものなのか。
水中メガネを聴いた人はどういう風にこの曲を捉えているんだろう?そう思ってグーグルさんに聞いてみる。
検索結果に出てくる、水中メガネの歌詞の感想、考察。
“水中メガネの向こう側とは”
そう銘打った記事を読んだとき、こんな記事が検索の一番上に出てくるのは間違ってるなぁと思ってしまった。
歌詞の解釈は人それぞれ。それは分かってるけど、でも許せなかった。深くまで考えていない、歌詞の表面をなぞっただけの感想、考察。
カップルにありがちな悩みを、松本隆の美しい言葉と草野マサムネの美しいメロディで紡いだ曲。
水中メガネは、そんなありきたりな曲ではない。
水中メガネは、少年と第二次性徴を迎えてしまった少女の曲なのだ。
目次
スピッツの「水中メガネ」は何を歌っているのか
何も考えずにただ聞いているだけだと、この曲「水中メガネ」は気持ちが離れ始めているカップルのことを歌っているように聞こえてしまう。
しかし、最後の最後で曲の中の「私」は自分を「見知らぬ女の子」なんだと認識する。それで全てが変わる。
なぜ「見知らぬ女の子」なのか。それこそが重要なのだ。
「水中メガネ」の歌詞には過去を思い出すような言葉が多い
この曲は最初から最後まで少女の目線で歌われ、昔のことを思い出しているような描写がよく出てくる。
水中メガネで記憶へ潜ろう
あの夏の匂い
去年は裸で泳いでたのに
そしてこの歌の一番のキーワードである「水中メガネ」。
少女は、水中メガネをつけると、少年と一緒に裸になって海で泳いだあの夏を思い出す。
でも今は、現実は、少年との間に壁やすれ違いのようなものを感じている。一緒にいるのに孤独を感じてしまう。
あなたの視線に飽きられちゃったね
去年は裸で泳いでたのに
無言の音がきしむ音かな
あなたは無視して漫画にくすくす
私は孤独で泳ぎだしそう
ここだけ見ると、カップルの気持ちが離れ始めていることを歌った歌に思えてしまう。でも、おそらくそうではない。
何も考えずにそのまま聞いても分かる、二人の関係の変化。
それは身体の変化によってもたらされているものだと分かる歌詞が、この「水中メガネ」には含まれている。
鏡の前で「水中メガネ」をつけて踊る少女
泣きながら鏡の前で
踊る踊るゆらりゆらりにわか雨
このフレーズは水中メガネの最初と最後に出てくる。
なぜ泣いているのか。なぜ鏡の前にいるのか。
少女は、自分の姿を見て泣いているのだ。
第二次性徴を経て思春期を迎えたとき、少年と少女には差が生まれ始める。
生まれるのは、身体的な特徴。
それまではそれほど変わらない身体をしていたのに、時間とともに二人の身体の違いは大きくなっていく。
身体に違いが生まれると恥ずかしさを感じるようになって、身体を見せることをしなくなる。
そしてだんだんと、少女と少年との関係は少しずつ変わっていくのだ。
前のように遊ぶことも少なくなって、一緒にいたとしてもそれほど関わり合うことはない。少しずつ、少しずつ、時間と共に変わっていく。
どう抗ってもそれは止められない。
この少女の生きている「今」では、二人はもう裸でじゃれあうことはできない。
洪水みたいに時の波が押し寄せる
水中メガネの向こうで
だから少女は鏡の前で、水中メガネをつけて泣いている。少年と同じ、男の子だった頃の自分を思い出しながら。
少女が「水中メガネ」を外すとき
水中メガネをつけて、鏡の前で記憶の海を泳ぎながら踊る女の子。
時の流れに抗おうと必死でもがくが、どれだけ頑張っても、水中メガネを外してしまえば、そこには女性の身体に近づき始めている自分が立っている。
一人鏡の前で
踊る踊るゆらりゆらりにわか雨
水中メガネを外せば
見知らぬ女の子
なぜスピッツの「水中メガネ」の歌詞は難しいのか
この曲の上手なところは、大人の男女を感じさせるような言葉を織り込んでいることだと思う。
あなたの視線に飽きられちゃったね
岩陰でいちゃついてた あの夏の匂い
すでに大人になっている男女二人を思い浮かべながら聴いてしまうと、この言葉に引っ張られて抜け出せなくなる。
この「いちゃついてた」は、決して性的なものではない。
女の子にとってのいちゃつきは、ただ二人で遊ぶこと。
それこそが少女にとっての最大の愛情表現で、少女が求めたものだった。
スピッツの「水中メガネ」が歌うもの
スピッツの水中メガネは、絶対に巻き戻すことはできない時間と、その時間に伴って子どもから大人になってしまう悲しさ、寂しさを歌っている。
この曲は単純なラブソングではない。単純な失恋の歌でもない。
ここまで美しく、過不足なく完成された歌詞はなかなかないと思う。素晴らしすぎる。
拙い文章失礼しました。音楽っていいね。
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